ビジネスにおける新規事業の立ち上げとは?成功事例や注意点も解説!


企業が継続的に成長する上で、既存事業だけでなく新規事業を立ち上げることが重要です。新規事業を立ち上げることで、既存事業の認知度向上や新たな収益の柱を作ることもできるでしょう。しかし、せっかく新規事業を立ち上げても、実際に成功する確率はとても低いといわれています。

そこで、本記事では経営者や事業責任者など新規事業の立ち上げを目指している方、さらには新規事業の開発を任された新規事業の担当者に向けて、事前準備や事業開発の手順を詳しく解説します。新規事業を成功させるポイントは、市場ニーズの確認と既存事業を活かしたサービスの提供です。また、新規事業を黒字化するには時間がかかる可能性もあるため、担当者だけでなく経営者や事業責任者の協力が必要です。

実際に新規事業を立ち上げて成功した企業の事例や、使える補助金についても解説するのでぜひ参考にしてください。

目次

1.新規事業を立ち上げる目的

1-1.長期的なリスクヘッジに繋がる

新規事業を立ち上げる目的として、長期的なリスクヘッジが挙げられます。

現代において、企業の外部要因である市場の動向は絶えず変化しており、業績を安定させるには市場変化への対応が重要です。

もし既存の事業が低迷しても、新規事業の拡大で収入源が複数あれば、業績に与える影響を少なくできるでしょう。短期的な目線ではリスクを伴いますが、長期的なリスクヘッジの手法として、新規事業の立ち上げは有効な手法です。

実際に、令和4年の個人企業経済調査によると、事業経営上の問題点として「需要の停滞(売上の停滞・減少)」と回答した事業所が32.7%を占めていることがわかりました。多くの事業所が既存事業の停滞を実感していることから、新規事業の立ち上げを検討する事業所は今後も増えるでしょう。

参照元:【総務省統計局公式】個人企業経済調査 調査の結果

1-2.優秀な人材育成の機会が増える

優秀な人材育成の機会が増える点は、新規事業を立ち上げる目的のひとつです。

新規事業の立ち上げには、経営者としての視点が求められます。そのため、新規事業の担当に任命された従業員は、業務を通じて経営者視点を養うことができ、今後も企業の中心として活躍が期待できるでしょう。

ただし、新規事業を通じて人材育成を成功させるには、担当者の仕事の裁量を適切に設定しなければなりません。担当者に任せる姿勢は必要ですが、一任してしまうと事業自体が失敗するリスクもあります。

また、新規事業の立ち上げに積極的に挑戦する企業には、意欲の高い優秀な人材が集まりやすい傾向にあります。そのため新規事業の立ち上げは、採用戦略としても効果的です。

1-3.収入の柱が増える

新規事業の立ち上げにより、収入の柱を増やすことが可能です。

新規事業が軌道に乗れば、既存事業の利益にプラスして新規事業の利益が計上できます。初期投資の必要はありますが、既存事業を伸ばすよりも利益の拡大が見込める場合があるため、挑戦する意義は大きいといえるでしょう。

また、増加した利益を経営資源へ投資することで、企業のさらなる成長や発展を促す好循環が生まれます。

2.新規事業の立ち上げで失敗する原因

2-1.黒字化までに時間がかかる点を理解していない

新規事業の立ち上げで失敗する原因のひとつとして、黒字化までに時間がかかる点を理解していない点が挙げられます。

新規事業の立ち上げは、手探りではじめるケースがほとんどです。ノウハウもない状態でスタートするため、事業が軌道に乗るまである程度の時間が必要でしょう。

一般的に、新規事業を立ち上げてから黒字化するまでには3~5年程度といわれています。さらに初期投資を回収するには5~10年程度を要するため、中長期的な目線で事業計画を立てなければなりません。

短期間で黒字化できず撤退してしまうと、損失だけを計上してしまいます。成果が出るまで時間がかかることは、立ち上げの段階から覚悟しておきましょう。

2-2.撤退の判断基準が不明確

新規事業を立ち上げる際は、撤退の判断基準を明確に設定することが重要です。撤退の判断基準が不明確な場合、大きな損失が発生するリスクを伴います。

事業を拡大する場合は、失敗のリスクを考慮しなければなりません。ノウハウがない状態でスタートする場合も多く、軌道に乗る前に撤退を強いられるケースは想定しておいてください。

撤退の判断基準を明確に設定することで、損失を最小限に抑えられます。会計上の損益や市場規模・自社リソースなどをふまえて、最適な基準の設定を心がけましょう。

2-3.事業規模が大きくなりスピード感がない

新規事業の規模が大きくなることで、スピード感が失われるケースも少なくありません。事業の拡大で失敗する要因となるため、注意しておきましょう。

新規事業を立ち上げる際に、必要以上に人員を多く割いてしまう失敗事例もあります。チームが肥大化することで意思決定のスピード感が失われてしまい、市場の移り変わりに対応できないケースもあるため注意が必要です。

チームの編成は適切で最小限の人数を意識し、変化しやすい市場にうまく対応することを心がけましょう。そのためには、高速でPDCAサイクルを回し、進捗管理に時間をかけ過ぎないことも重要です。

3.新規事業立ち上げの事前準備

3-1.ビジネスモデルを選定する

新規事業立ち上げの事前準備として、ビジネスモデルの選定が必要です。

新規事業を立ち上げる際のパターンは主に4つです。

  • 既存事業の枠組みを応用した新規事業の立ち上げ
  • 既存事業を活かした新規事業の立ち上げ
  • 社内での新規事業事業の立ち上げ
  • M&Aによる新規参入

上記いずれかのパターンから、自社の特性や状況に合う適切なビジネスモデルを選択しましょう。

また、ビジネスモデルを選定する際には、以下の要素が重要といわれています。選定に悩む際は、判断に役立ててください。

  • Who(顧客の特性)
  • What(顧客になにをもたらせるのか)
  • How(どのように価値をもたらすか)
  • Why(どうして利益が生まれるのか)

特に重要なポイントは、顧客のニーズを基にビジネスモデルを選定することです。ニーズを把握するためには、Who(顧客の特性)の部分を正確に分析する必要があります。

ビジネスモデルの選定に失敗してしまうと、新規事業を軌道に乗せることは難しくなるでしょう。根幹を担う非常に重要な部分になるため、時間をかけてしっかり検討してください。

3-2.資金調達先や活用計画を策定する

資金調達先や活用計画を策定することも、新規事業立ち上げの際に重要な準備事項です。

どれだけ有力な新規事業のアイデアがあっても、資金がなければ収益は得られません。必要な資金を正確に見極め、会社の経営に影響がでないよう注意しましょう。

資金調達の方法として、企業内部で調達する方法と外部から調達する方法が考えられます。基本的に自己資金の活用や社員持株会など内部調達が中心ですが、資金が不足する場合は外部からの調達も検討するべきでしょう。

外部から資金を調達する方法として、主に6つ挙げられます。

  • 銀行からの融資
  • 制度融資
  • 他企業からの出資の受け入れ
  • ベンチャーキャピタル
  • エンジェル投資家
  • クラウドファンディング

中小企業が新規事業を拡大する際、特に多い方法は内部調達か銀行からの融資です。近年ではクラウドファンディングなど新たな資金調達方法も多く採用されているため、アイデアの内容によっては検討してもよいでしょう。

また、資金を調達したあとの活用計画も重要です。資金調達で得た資金をどのように活用するか、初期段階で可能な限り明確にしておきましょう。

3-3.補助金や助成金を検討する

新規事業の枠組みが適合する場合は、補助金や助成金の申請を検討しましょう。

国や地方公共団体では、企業の新規事業やスタートアップを支援する施策を推進しており、要件を満たせば補助金や助成金を提供してもらえる可能性があります。

補助金や助成金を受けるためには、受給資格を満たし、決められた手続きを経て審査に通過する必要があります。受給要件を満たすことは容易ではありませんが、経済面で得られるメリットは非常に大きいといえるでしょう。

経済産業省のホームページにはスタートアップ支援策の概要が記載されているため、参考にしてください。

3-4.撤退のタイミングを明確にする

新規事業立ち上げの際には、撤退基準を明確に定めることが重要です。上記で解説したように、撤退のタイミングが不明確だといつまでも赤字が続き、債務超過に陥る可能性があります。

撤退を判断する指標としてさまざま要素が考えられますが、そのなかでも貢献利益は重要な撤退基準の指標となるでしょう。

貢献利益は売上高から変動費や固定費を差し引くことで算出され、事業ごとに利益を把握できます。売上高や時期など、ほかの要素と組み合わせて撤退基準を設定すれば、効果的な損失の予防につながります。

3-5.M&Aなどの選択肢を確認する

新規事業を立ち上げる際は、M&Aなどの選択肢を確認しておきましょう。

M&Aとは、企業の合併・買収を意味します。一般的に複数の会社がひとつになったり、ほかの企業に買収され統合される現象を指しますが、事業単位でM&Aが行われる事例もあります。

新規事業の立ち上げでM&Aを行うメリットは、時間を大幅に短縮できることです。設備やノウハウなど基本的な要素が揃った状態でスタートできるため、効率的でスピーディーに事業を推進できます。

M&Aには専門性が求められるため、検討する際はM&A仲介会社など専門家への相談をおすすめします。コストは発生しますが、M&Aの成功率を高められるでしょう。

4.新規事業を立ち上げる10のステップ

4-1.市場調査を行う

新規事業を立ち上げる最初のステップは、市場調査を行うことです。

参入しようとしている市場の特徴・将来性・競合他社の状況などを詳しく調査することで、実際に市場への参入を決定する判断材料になります。

期待できるアイデアだったとしても、実際に市場調査をおこなった結果リスクの方が大きいと判明するケースは少なくありません。損失の防止にもつながるため、入念な市場調査を心がけましょう。

市場調査の具体的な方法は、アンケートや街頭調査・インタビューなどがメジャーなどです。コストを可能な限り抑えながら、効果的に調査できる方法を選択しましょう。

4-2.顧客ニーズを把握する

市場調査が完了したあとは、顧客のニーズを深堀りしましょう。

顧客のニーズを満たすことは、ビジネスの基本です。顧客の悩みやニーズを満たす新規事業でなければ、利用されない可能性があります。市場調査で集めた情報から顧客のニーズを徹底的に洗い出し、正確に把握することを心がけましょう。

客観的な分析を意識することで、顧客も気づいていない潜在的なニーズをつかむことができます。競合他社が実施していない内容であれば、ビジネスチャンスがさらに拡大できるでしょう。

4-3.新規事業のアイデアを出す


市場調査から顧客ニーズを把握できたら、新規事業のアイデアを出しましょう。

ここで創出されたアイデアが、事業モデルの基盤になります。市場調査と顧客ニーズの把握で得た情報が正確であるほど、効果的なアイデアを生み出せるでしょう。

4-4.事業化できるかを検討する


充分なアイデアが集まったら、実際に事業化できるのかを検討しましょう。

事業化が可能かどうかを判断する重要なポイントとして、「収益性」と「市場性」が挙げられます。顧客のニーズに対して適切な解決策を提示できても、マネタイズできなければ事業は成立しません。また、市場に参入した場合にシェアがとれるかどうかも充分な分析が必要です。

併せて、中~長期的な目線で投資シミュレーションを実施しておきましょう。初期投資がいつ頃回収できるかなど見込みを立てておくことで、撤退基準の明確な設定にもつながります。

4-5.新規事業を立ち上げる担当者を専任する

事業化が可能と判断できたら、新規事業を立ち上げる担当者を専任しましょう。新規事業を効果的に推進していくためには、プロジェクトの中心となり引っ張っていける人材が必要です。

上記で解説したように、新規事業を任された人材は経営者視点がつくため、今後の活躍にも大きく期待できます。そのため、新規事業を成功させる力があるかどうかと同時に、今後の将来性も視野に入れて担当者を選任するとよいでしょう。

また、選任した担当者を既存の業務から切り離し、新規事業にかける時間を確保することが重要です。既存の業務を兼任してしまうと担当者の負担が増えてしまい、業務過多で最大のパフォーマンスを出せない状況になってしまうでしょう。

逆に、新規事業を任された方は、経営者から期待を寄せられているということです。新規事業の立ち上げは苦労が伴う業務ですが、上司からの期待を意気に感じ、良い成長の機会を与えられたと思って頑張ってください。

4-6.新規事業の理念・コンセプト・ビジョンを明確にする

新規事業の立ち上げが具体的になった段階で、改めて事業の理念・コンセプト・ビジョンを明確にしておきましょう。

新規事業の目的は、顧客のニーズを満たし課題を解決することですが、「なぜ自社が、新規事業をやるのか」を明確にしておく必要があります。理念・コンセプト・ビジョンを顧客に示すことで、自社が参入する目的を理解してもらい、市場でのポジション確立につながるでしょう。

コンセプトやビジョンを設定する際には、企業の理念や既存の事業と結び付けて考える方法が効果的です。企業として一貫性を持つことで、顧客の信頼を得やすくなります。

4-7.事業モデルを検討する

コンセプトやビジョンを設定したら、具体的な事業モデルの設定に進みましょう。

事業モデルを検討するためには、必要な経営資源を把握する必要があります。「ヒト・モノ・カネ」の視点で経営資源を確保するために、不足分は外部からの調達を検討しましょう。

また、マネタイズ方法も併せて検討する必要があります。ここまでのステップで集めた情報やアイデアを基に、どのように利益を出すのか話し合いましょう。

4-8.ビジネスフレームワークを作成する

ビジネスフレームワークとは、情報の整理やアイデアを出す際に使うツールや考え方です。

一般的にビジネスフレームワークといえば、SWOT分析やPEST分析などがあります。

しかしこの記事では、「バリュープロポジションキャンバス」をおすすめしておきます。

バリュープロポジションキャンバスとは、自社の製品やサービスと顧客の状況やニーズを可視化するフレームワークです。日本語では「顧客への提供価値」と呼ばれており、顧客のどのようなニーズを満たすのかを指します。

バリュープロポジションキャンバスは、「顧客への提供価値」と「顧客セグメント」を書き、両者の関係性を可視化することで新規サービスの開発に活かされます。

4-9.事業計画書を作成する


事業モデルを選定したあとは事業計画を策定し、計画書に落とし込みましょう。

事業計画とは、新規事業における目標や達成のために行う内容・事業戦略・収支計画などを具体的に定めたもので、今後の事業推進における軸となる計画です。

新規事業の立ち上げは、ノウハウが少ない状態でスタートするケースが多く、どのように推進すべきか悩むポイントは多いはずです。しかし事業計画が明確であれば、判断に迷う際の指針となるでしょう。

また、資金調達の際には事業計画書が必須となります。金融機関や投資家が出資を検討する際の判断材料としても使用されるため、事業計画の完成度は資金調達の成否に影響を与えます。

PDCAサイクルを回す際にも、根本となる事業計画は非常に重要です。計画において定めた目標やプロセスがどこまで達成できたかを分析することで、事業の結果を正確に評価し、適切に進行管理できるようになります。

4-10.新規事業に必要な人材を確保する

事業計画が完成したら、新規事業に必要な人材を確保し適切に配置しましょう。適切な人員配置ができなければ、新規事業の立ち上げを成功させることは難しくなります。

既に選任した担当者を中心に、事業の推進に必要となる人材を複数の部署から割り当てることで、必要最小限のチームを完成させましょう。初期段階では柔軟性やスピード感を重視し、状況に応じて人数を増やしていく手法が効果的です。

5.新規事業の立ち上げを成功させるポイント

5-1.自社の強みを活かす

自社の強みを活かすことは、新規事業の立ち上げを成功させる重要なポイントです。

顧客のニーズを正確に把握し、解決に導く効果的なアイデアが思いついても、それを実行できる能力がなければ新規事業は成功しません。

自社の強みを最大限発揮できるビジネス領域を選ぶことで優位性が高まり、参入障壁を少なくできるでしょう。「SWOT分析」や「クロスSWOT分析」などの手法を活用すれば、客観的に自社の強みや弱みを整理し、事業戦略につなげられます。

また、既存のリソースを可能な限り活かすことも重要です。自社の棚卸しをおこない新規事業に活かせるリソースが見つかれば、積極的に活用することで初期コストの削減にもつながります。

これまで推進してきた事業と親和性がない、まったく新しい分野に挑戦する場合でも、自社の強みやノウハウが活かせる要素は見つかるはずです。フレームワークを上手に活用しながら、自社の優位性を活かした事業展開を心がけましょう。

5-2.新規事業立ち上げの目的を明確にする

新規事業立ち上げの目的を明確にしておくことは、成功のポイントといえるでしょう。

上記で解説したように、新規事業は軌道に乗るまでに時間がかかります。初期段階では多くのコストや労力が必要となり、困難を乗り越えるためには明確な目的が必要です。

特に経営理念から外れた事業であれば、社内の共感が得られない可能性もあります。自社の理念やビジョンと結び付けられる目的があれば、確固たる軸を維持しながら新規事業を推進していけるでしょう。

5-3.収益化までのモチベーションを維持する

従業員のモチベーションを維持することも、新規事業を成功させるポイントのひとつです。

新規事業を立ち上げたばかりの段階では目に見える結果が出にくいため、「労力と見合っていない」と感じる従業員もいるでしょう。収益をあげている既存事業のメンバーからのやっかみや揶揄などによって、モチベーションが下がるケースも多くあります。たとえ意欲の高い人材を割り当てたとしても、自主的なモチベーションの維持には限界があります。

数字以外の働きを評価できる適切な評価制度の導入や、従業員の不満や悩みを解決できるための1on1ミーティングの実施など、新規事業に携わる従業員がモチベーションを維持しやすい環境を整備しましょう。

モチベーションは、新規事業の成功に大きく関わる重要な要素です。優先順位を低く見積もった結果、事業が失敗する原因となった事例も数多くあります。新規事業を立ち上げる際は、特に注意しましょう。

5-4.テストを行い顧客のニーズを確認する


新規事業の立ち上げに伴うリスクを最小限に抑えるためには、参入前にテストを行い顧客のニーズを再確認しましょう。

市場調査を入念に行い顧客の需要が見込めると判断しても、市場に参入したら利用してもらえないケースは少なくありません。リソースや対象範囲を限定して参入前にテストマーケティングを行えば、実際の需要を確かめられます。

また、顧客のフィードバックが受けられるほか、事業計画に沿った運営ができるか確認できる点も、テストマーケティングを行うメリットです。机上の空論とならないよう、コストを割いても実施する意義はあるといえます。実際に、成功する事業は、このテストマーケティングに大きなリソースを割いています。

5-5.競合と差別化する

競合との差別化は、新規事業を成功させるための重要なポイントです。

商品やサービスの価格競争で優位に立つほか、品質や販売方法など、競合と差別化するポイントは複数あります。自社の強みをうまく活かし差別化できれば、市場でのポジションを長期にわたり確立できるでしょう。

一方で競合企業に対して優位性がなければ差別化が図れず、市場でのシェア拡大は困難です。無理に市場へ参入すると失敗する可能性も高まるため、客観的な分析が重要です。

6.新規事業立ち上げの成功事例

6-1.富士フイルム

https://h-jp.fujifilm.com/home

新規事業立ち上げの成功事例として、写真フィルムの大手メーカー「富士フイルム」の事例を紹介します。

富士フイルムは写真フィルムのメーカーでありながら、需要の変化からマーケットの縮小に直面し、化粧品事業や医薬品事業・再生医療事業への拡大を成功させました。

新規事業はもともとの写真フィルム事業とは関係がないように思えますが、技術面での親和性が高く、既存の経営資源を上手く応用することで市場のシェアを確立しています。

新規事業のアイデアを生み出す際には、富士フイルムのように自社の強みを深堀りし、徹底的な棚卸しをおこなうことで勝算のある分野を見出すことが重要です。

6-2.ホンダ

https://www.honda.co.jp/jet/

モビリティメーカー「ホンダ」が挑戦したホンダジェット事業も、新規事業の立ち上げにおける成功事例といえるでしょう。

ホンダジェットは、2015年から発売された小型のジェット機です。2021年には納入数37機を記録し、同クラスでは5年連続で世界最多の納入数を獲得しました。

本事業の成功の背景には、ホンダの技術力やコロナ禍による需要の変化が大きく影響したといわれています。市場の変化を迅速にキャッチし解決策を提示することで、ホンダは自社の価値を活かしたといえるでしょう。

6-3.日本郵政

https://www.okippa.life/

日本郵政がYper株式会社と連携して実施した「OKIPPA」は、再配達防止を目的とした置き配バッグです。

宅配ボックスなどを利用した置き配の仕組みは既に存在していましたが、価格が高いなどの理由から一般家庭には浸透していませんでした。

しかし、日本郵政とYper株式会社のOKIPPAは低価格で導入でき利便性も高く、地方自治体との連携により国内各地へ大きく浸透しました。また再配達の防止にもつながり、CO2排出を削減することでSDGsの推進にも寄与しています。

社会問題や環境問題など、課題に対する解決策を提供し新規事業を成功させた事例として、日本郵政のOKIPPAは参考となるでしょう。

6-4.ヤマダ電気

https://www.yamada-denki.jp/service/reform/

家電量販店大手のヤマダ電機は、2010年代から全国の店舗網を活かして住宅リフォーム事業に参入しました。

ヤマダ電機が住宅リフォーム事業に着手した背景として、IoTの普及が挙げられます。IoTとは、さまざまなモノのインターネットに接続しデータをやりとりする仕組みです。家電と住宅の市場が融合する将来を見越して、ヤマダ電機は住宅リフォーム事業に参入したといわれています。

ヤマダ電機の事例のように、新規事業立ち上げの際は市場の動向や将来性を分析して先回りする姿勢も重要です。顧客の需要の変化を予測することで、事業の持続性は高まるでしょう。

6-5.ソニー

https://sony-startup-acceleration-program.com/

自社の専門領域外で新規事業を成功させた事例として、ソニーの「SSAP」が挙げられます。

ソニーが提供するSSAPは、新規事業の立ち上げを支援するプログラムです。これまで数々の新規製品やサービスを生み出してきたソニーが持つノウハウを、社外に向けて発信することで事業化に成功しています。

技術力やアイデアを持ちながら、ノウハウが不足しており事業化に踏み出せない企業は数多くありました。ソニーのSSAPは社内で一定の成果を生み出しており、自社の強みを斬新なアイデアに結び付けることで成功した事例といえるでしょう。

6-6.ダイハツ工業

https://www.daihatsu.co.jp/rakupita/


ダイハツ工業の「らくぴた送迎」は、既存事業の枠組みを超えた新規事業の成功事例です。

らくぴた送迎は、介護現場が抱える問題に着目しスタートしました。デイサービスのなかには、職員が利用者の自宅まで送迎を行う事業所もあり、場合によっては混雑時に複数の利用者の自宅を回る必要があります。

しかし、らくぴた送迎を活用すれば、最適な送迎ルートの作成が可能となるほか、キャンセル連絡や到着通知も簡単に共有することが可能です。

ニッチな市場ではありますが、少子高齢化が進む現代において、今後も需要は高まる分野といえるでしょう。自社のノウハウを社会的なニーズと上手く結び付けた、非常に参考になる成功事例といえます。

7.新規事業の立ち上げで気をつけたいポイント

7-1.自社の業務と関連する事業を立ち上げる

事業を拡大する際は、自社の業務と関連する事業を立ち上げることを意識しましょう。自社の業務と関連がなければ、目的が不明確となり、既存ビジネスとの相乗効果も見込めません。

既存のリソースを活用できれば、コストの削減にもつながります。そのためまったく関連性のない事業を立ち上げる場合よりも、成功率は高まるでしょう。

また、既存の業務に捉われず、自社の経営理念やビジョンから新規事業に関連性を持たせる手法も効果的です。自社の強みを深堀りすれば、親和性を持つ新たな領域が見つかる可能性があります。

7-2.スモールスタートを心がける

新規事業立ち上げの際は、スモールスタートを心がけましょう。

意思決定のプロセスを迅速化させるには、少数精鋭のメンバーでチームを構成することが重要です。必要以上にチームが肥大化すると、スピード感が失われる可能性が高まります。

また、人数が多くなり過ぎるとメンバーの意見が反映されにくくなるデメリットもあります。コミュニケーションの難易度も上がり、チームの統率がとれない状況では事業の推進に悪影響を及ぼしてしまうでしょう。

7-3.ビジネスフレームワークをうまく活用する

新規事業を立ち上げる際は、ビジネスフレームワークを上手に活用しましょう。

市場の動向を把握できる「PEST分析」や、市場と自社・競合の関係性を客観的に整理できる「3C分析」など、新規事業の立ち上げに活用できるフレームワークは複数あります。

適切なフレームワークを活用することで、市場調査やビジネスモデルの選定をスムーズに行うことが可能です。推進したい事業の内容や市場の特徴を踏まえて、目的に合ったフレームワークを活用しましょう。

7-4.市場参入のタイミングに問題がないか確認する


新規市場に参入する際は、タイミングに問題がないか注意しましょう。

市場の動向は日々変化し、顧客のニーズも激しく移り変わります。事前準備や分析に時間がかかると、その間に市場の状況が変化し、ベストな参入タイミングを逃す可能性も否定できません。

将来性がなくなれば、参入の意味が薄れてしまいます。市場の動向を常にチェックし、最適なタイミングで参入することが重要です。

8.新規事業の立ち上げで使える補助金一覧

8-1.事業再構築補助金

事業再構築補助金は、コロナ前のビジネスモデルから転換するための事業に対する補助金です。

コロナの影響で厳しい状況におかれた中小企業や個人事業主などが対象で、令和4年度第2次補正予算において5,800億円が計上されています。

公募要領は公式サイトで公開されているため、興味のある方はぜひチェックしてください。

8-2.ものづくり補助金

ものづくり補助金は、中小企業が経営革新のための設備投資に利用できる補助金です。試作品の開発や新たな生産方式の導入などに活用でき、上限金額は750万円~5,000万円で設定されてます。

補助金なので返済の必要がない点はメリットですが、煩雑な申請手続きや事業計画書の作成が必要となるため注意が必要です。詳しくは、全国中小企業団体中央会の公式サイトを確認してください。

8-3.IT導入助成金

IT導入助成金とは、中小企業や小規模事業者を対象とした、ITツールの導入を支援するための制度です。

コロナの影響でリモートワークの推進や、近年のペーパーレス化の流れを受けて、今後もIT化を検討する企業は増えてくるでしょう。条件を満たせれば、自社のコストを抑えてITツールを導入できるメリットがあります。

公式サイトでは申請書の書き方なども詳しく解説されているため、気になる方はぜひチェックしてください。

※リンクは2023年後期サイト

8-4.創業助成金

公益財団法人東京都中小企業振興公社が実施する創業助成金は、都内で創業予定の方、もしくは創業してから5年未満の方を対象とした助成金です。

前述した補助金と異なり地域は限定されていますが、創業前の状態で申請できる点はほかにはない大きなメリットといえるでしょう。申請が通れば社会的な信頼の形成にもつながり、創業時の資金調達が有利になる可能性もあります。

対象となる詳しい条件や助成対象経費を知りたい方は、東京都産業労働局の公式サイトをチェックしてください。

まとめ


新規事業を行う上で、どのようなステップで進めればいいのか、失敗しやすい原因などを解説しました。新規事業が黒字化するのは、簡単なことではなく計画が長期になってしまう可能性があります。しかし、黒字化することで既存事業への相乗効果が生まれたり、競合との差別化を図ったりすることができるでしょう。

まずは、市場や顧客のニーズをしっかりと把握し、自社の強みの棚卸しを行ってください。また、成功事例で紹介した企業のように、既存事業がうまく活かせる分野に参入することをおすすめします。

これから新規事業を始めたいと考えている経営者や事業責任者の方は、本記事を参考にして、新規事業を成功に導かれることを願っています。

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